大学の“人創り”を考える

コアネットの嘉村です。
ある大学の本部スタッフの方と話をして感じたことです。

話題は学生サポート。要するに、授業選びのオリエンテーションにはじまり、担任やゼミ、各種相談対応、同級生同士のサポートの仕組み化から果ては友だちづくりの助言や機会提供まで、学生が大学生活に適応できるようにフルサポートする取り組みについてです。
大学中退者の増加は、大学経営の視点からみれば重要テーマ。特に、増加傾向にある大学にとっては見過ごせない課題です。

もちろん、近年特に盛んと聞く学力不足学生に対する補講もその一環ですが、それでもなお大学中退者は増加傾向。国立でも3%、私大は更に多く、1割に及ぶ大学もあると聞きます。1年次で中退した学生から得られるはずであった、残り3年分の学費を考えれば、財政的なインパクトは大変大きいことがわかります。
経営者の視点に立てば、何らかの支援でリテンション(学業継続)ができるのならば、ある程度の手間、コストをかけてもという思いにかられることでしょう。

一方で、多くの大学関係者にはこのような「手取り、足取り」的な学生サポート競争への疑問、違和感をもつ方も多いようです。大学教育はいうまでもなく高校までの教育とは異なるもの。授業内容の専門性や多様性はもちろん、自ら計画を立てて授業を選び“自学”し、学友を創って大学生活自体を確立するプロセスそのものが人間的成長を促す機会・ステージではないかという見解。不勉強であった我が身を振り返ってもそう感じます。

個人的には上記の“手厚いサポート”は、そういう成長機会(試練)を台無しにしてしまうリスク(デメリット)をもつように思えます。
その結果、客観的には大学生でありながら内面的な成長機会をえられず、大学3年になると就職不安から早々に就活塾のような場所に通う学生。それを金銭的にも応援し、就職まで面倒を見ようとする親?

ちなみに有力企業や成長企業の採用担当者は、そういう学生には見向きもしません。彼らが掲げる採用したい学生像、ポテンシャルを感じる学生の対極にあると映るためです。
その結果、ミスマッチにより何社にアプローチしようとも内定を得られない学生が生じてしまう構造。その一因を(大学側が)自ら創り出してしまっているのではないか、とも思えます。

とはいえ、「無策で中退者続出」では経営が持ちません。
出口はどこにあるのでしょうか?

個人的には、教育の原点に戻って授業力向上に注力する正攻法。つまり、卒業生が「この大学・学部を選んで正解だった…」と語り、学生が「力がつく。選んで良かった」と思い目を輝かせて次回を待つ授業の実践こそが、最大のリテンション策だと思います。
対学生だけでなく、対教職員の取り組みにこそ、本腰を入れて力を注ぐべきではないでしょうか。

米国でエンロール・マネジメント(各大学にとって適切な学生の獲得、卒業まで到達させるために必要な在学中の支援と環境整備)を1970年代に確立したボストン・カレッジのジョン・マグワイア博士の指摘です。
「戦略の基本に高等教育の本質を据える」
※本質:一般教育(未来を切り拓き、社会に貢献し、人生を豊かにするツール)

このような幹を確立したうえで、様々な学生視点に立った施策が補完し、卒業後も続く関係性を創り上げる取り組みが必要とされているように感じます。